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おそらくソリタリーのぼくの雑記

ブラザー・サン シスター・ムーン  あの日3人が見たものの意味

今回紹介しますのは、恩田陸著『ブラザー・サン シスター・ムーン』です。

 

夜のピクニック』から4年

青春小説の新たなスタンダードナンバー誕生

などと書いてあります。

 

こんなことを書かれてあると、この小説が『夜のピクニック』の続編のように

とらえる人もいると思いますが、それは違います。

 

前回紹介した『夜のピクニック』は高校生の話でしたが、

今回は大学生の話です。

 

ぼくとしては、この『ブラザー・サン シスター・ムーン』の方が好みでしたね。

 

帯には、“本と映画と音楽 それさえあれば幸せだった奇蹟のような時間“

と書かれてあります。

ぼくも一応は大学に行きましたので、そのときのことを振り返ってみますと

本と音楽に明け暮れた日々といっていいですね。

(映画はあまり観ない)

 

高校生の頃は受験勉強で忙しく、就職すれば仕事に追われる。

大学というのは、本と映画と音楽 そういうものにどっぷりとつかれる

いい時間だったと思います。

(別にそれが麻雀でもコンパでも山登りでもその人それぞれでいいと思いますよ)

 

この小説は同じ高校に通っていて、

大学も同じところに行くことになった3人の視点から語られます。

この3人同じ高校の同学年なのですが、同じクラスになったことはない。

その高校には変な授業があり、町の中に放り出されて、

取材のようなことをさせられるのだそうです。

そのときは、クラスの垣根はとっぱらい3人一組のチームに編成される。

そこでチームになった3人なのです。

それをきっかけに遊びにも行くようになるのですが、

クラスは違うのでずっといっしょというわけじゃあない。

そのあたりの3人の距離感みたいなことが、すごくいい小説でした。

 

 

第一部 あいつと私

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楡崎彩音という女性の視点から語られます。

文学部ですので、彼女は「本」について語ります。

 

そして、おそらくですがモデルは恩田陸さんご自身。

だからこんな学生生活をしていたのかなととても興味深く読めますね。

 

彼女はアルバイト先の飲み屋でお客さんからある質問をされます。

そのことがとてもひっかかる。

それへの答えを出すのに4年間を使ったといってもいいでしょう。

その答えとは。

 

読み進めるうちに彼女は現在は小説家となっていることがわかります。

(この人物は恩田さんが書く短編小説にも登場します。恩田さんの分身のような役割でしょうか。

それとも荒木飛呂彦さんが描く岸辺露伴のように同じ漫画家ではあるが、まったく性格は違う人物なのでしょうか)

 

学生時代の友人(揃って男性)に合うとこう言われることがあるといいます。

「俺も書くはずだった」

「進路で、文筆業と迷ったけど、婚約者がいたから、生活を選んだ」

「俺がやるはずだったことを、なぜおまえごときがやっているのか」

こんなひどいことを恩田さんも言われたのでしょうか。

(でなきゃこんなこと、ここで書かないですよね)

 

そして、そんな彼らにこう言い放つのです。

書く人は放おっておいても書く。働いていようが、結婚していようが、

シングルマザーだろうが。

彼らは書いていない。だから、そもそも書かない人だったのである。

 

ビジネス書を読んだり、成功した人の話を読んだりするとよく出てくることですよ。

〇〇だからできない。

〇〇ならばはじめるのに。

そう言って多くの人は、行動に出ようとしない。

 

やりたいのであれば、やればいいのにってことですよね。

 

ただし、恩田さんにも

「書くぞ」という並々ならぬ強い意志があるわけではないこともわかります。

そうではなく、

楡崎を通して、書くのは「癖」みたいなもの、といっています。

やめようにもやめられない、あんまり誉められたものではない、

注意されるといっときは直るが、しばらくするとやっぱり出てきてしまう

悪癖みたいなものだそうですよ。

 

 

第二部 青い花 

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戸崎衛という男性の視点から書かれます。

彼は音楽サークルに入って、バンドを組み、ベースを担当します。 

「音楽」について語られるわけです。

 

レギュラーバンドというそのサークルで一番うまいバンドになるために

メンバーたちと努力します。

 

この戸崎。楡崎とつきあっています。

高校2年の夏から。

でも、煮え切らない関係なのです。

週に一回か、10日にいっぺんくらいアパートに通っているにも関わらず、「清い」関係。

 

その微妙な関係がなんかいいんですよね。

 

戸崎は楡崎が忘れていった本の中に、

自分たちのことを示したような言葉を発見するのです。

 

第三部 日の当たる場所

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最後は、箱崎一です。

「映画」について語られます。

しかも、彼は映画監督になり、

他の名だたる大家の作品を押しのけて、コンペティション部門に招待されたことが

決まっています。

その彼にライターがインタビューする形式で話が進行します。

 

やがて箱崎彩音のことを思い出します。

彼女はナタリー・ウッドみたいだと。

彼女とは蛇の話をした。

この話が重要なのです。

 

“ねえ、覚えてる?

空から蛇が落ちてきたあの夏の日のことを・・・。“

 

ある初夏の午後、楡崎・戸崎・箱崎の3人は水路の脇を歩いていた。

突然空から蛇が降ってきたのだという。

それは水路の中に落ちた。

驚いて3人が覗き込むと

それは数匹が絡まり合うようにしてしばらくそのまま泳いでいた。

やがてはバラバラになってそれぞれの方向へと泳いでいったのだが・・・。

 

それを解釈する言葉を箱崎は映画の台詞から引用します。

 

これこそが、この小説。

『ブラザー・サン シスター・ムーン』の核です。

 

わかるわその感じーーーーー。

深くしみじみと行き渡るすばらしい一行なのです。

 

ぜひぜひぜひ。読んでほしいです。

夜のピクニック』の方が評価高いけど、

こっちの方がぼく好みです。

 

ホイじゃ、また。

 

 

ちなみに、ぼくは蛇は苦手です。