toohiiのお一人様がいい

おそらくソリタリーのぼくの雑記

他の惑星に移住した子孫たち。似て非なる日本人の奇妙な生活。何があった?

出ました。

 

2年半ぶりの新作ですね。

貴志祐介さんの短編集『罪人の選択』.

 

収録作品は4本。

 

その中にはあの『新世界より』の刊行後ほどなくして発表されたという

「呪文」という作品ががあります。

今回はその「呪文」に絞って書きますね。

 

この物語は人間が移住した惑星での話です。

設定が『新世界より』と似通っているところがある作品なのです。

それだけで読んでみたくなりませんか。

 

おそらく「新世界より』の構想を練っている段階で出てきたアイデアの一つ

ではないかと思います。

ひょっとしたら『新世界より』は

この「呪文」の世界で繰り広げられていたかもしれません。

 

新世界より』は1000年後の日本が舞台です。

では「呪文」はいったいいつなのか。

これは、はるかはるか未来の話です。

惑星移住がふつうに行われるほどに科学が進歩しています。

手ごろな惑星を見つけて、地球人が住める環境にするテラフォーミング

して移住させる。これが確立されている世界です。

 

ところが、十分にテラフォーミングしたはずなのに、何故かうまくいっていない

惑星がいくつか存在する。その一つが惑星「まほろば」。

ぼくたちの世界よりもずっとずっと科学が発達している世界のはずなのに、

まほろば」に移住した者たちは、全くの手作業で農耕生活をしているのです。

機械作業は一切ありません。

ぼくたちがいる世界よりも古い生活様式なのです。

そのあたりは、『新世界より』に似ていますね。

 

あっ。こんな書き方をしていると、じゃあ、『新世界より』という小説を

読んでない人は楽しめないのか、と言われてしまいそうですね。

 

そんなことはありません。

 

地球の日本人が移住したという設定のため、物語には注連縄や、六地蔵

神社などが登場します。でも、その扱いがぼくたちのものとは違います。

似て非なるものといいますか、神社は行ってはいけない不浄の場所とされていますし、

そこにあるのは逆さ鳥居です。神社へ入るときにくぐる鳥居がさかさまにされて

いるのです。罰当たりですよね。

ではそこに住む人たちは悪魔崇拝的な考えの人たちなのかといえば、そうでもない。

農作業をする知り合いをねぎらう姿。自分をおとしめ、相手を持ち上げる会話の応酬。

それを終えて別れるかと思えば、そこからまた同じことが始まる姿。

今の日本でも見られる光景は、時と場所は違えどもやっぱり古き良き日本人の感覚を

持ち合わせている人のように見えます。

 

そんな日本人が移住した惑星「まほろば」で、

起きてはいけないことが起きているかもしれない。

それを調査する目的で、主人公の金城・イシドロ・GE・黎明(これが名前です)が

やって来ます。彼は古代日本文化の専門家という位置づけです。

惑星「まほろば」の日本とは似て非なる文化に、ぼくたちと同じように首を傾げます。

 

また、彼の名前にある「GE」。これは「GE」という超巨大企業に所属していることを

示しており、その大きさは国や惑星を超えて銀河全域。星間企業という存在です。

この星間企業の設定についても皮肉たっぷりに語られています。

 

シニカルな笑いと捉えられますが、その一方で笑っている場合ではない恐怖が込められているように感じさせるところが、さすがに貴志さんでしょうか。

 

実際、惑星「まほろば」の住人も金城が何を調査しに来たのか恐れているようです。

その後ろにいる巨大星間企業に対して。

経済的発展ということではかなり下位に属するような星にまで調査員を派遣する監視社会が伺えます。

 

そういう点でいいますと、

愛し慈しむべきものが忌むべきものとして扱われている生活。

監視社会。

暗くくすんだものに覆われているような世界。

このような共通点から、平山夢明さんの短編集『独白するユニバーサル横メルカトル』に所蔵されている『オペラントの肖像』を思い出させました。(ぜんぜん違うよと怒られてしまうかもしれませんが)

 

独白するユニバーサル横メルカトル (光文社文庫)

独白するユニバーサル横メルカトル (光文社文庫)

  • 作者:平山 夢明
  • 発売日: 2009/01/08
  • メディア: 文庫
 

 

「呪文」では、奇妙な生物も登場します。

こういうのも貴志さんは得意ですよね。

 

80ページの物語ですが、ずっしりとした重みを感じさせます。

いろいろ書いたけど、ぜんぜん核心に触れてません。

ほんのさわりです。

是非読んでみてください。